人間的な「時」の中で

 旅をしている時の移動手段は、歩くことがほとんどのように思う。単に歩くことが好きということもあるのだが、その土地の空気に直に触れ、寄り道などをして大通りにはないような小粋なショップを見つけるなど、普段は見過ごしてしまうような新たな発見も歩いていると出くわす確率も格段に多くなるように思う。

 

 

 そういった自分で発見したことは、何かのガイドブックで見て訪問する、ということとはまた別の宝物のような特別感を味わえる。それに身体(足)がその土地に接している時間も他の移動手段よりも遥かに長いこともあるので、歩行速度でしか感じられない身体経験なども無意識に感じ取っていて、自分の感受性との対話をするために、歩くことは自分の人生において、とても大事な要素だと感じている。

 ペール・アンデションというスウェーデンのジャーナリスト・作家が書いた「旅の効用 – 人はなぜ移動するのか -」という書籍でも、移動する時に飛行機などよりもバスや電車のように時間をじっくりかけた移動手段を選ぶことをすすめている。この本曰く、身体的な経験を伴った記憶に結びつくということが論じられている。

 

 

 世の中がやむ泣き事情により、容易に海外旅行などに出られなくなってしまって、人の活動範囲はそれ以前に比べて実感値として7割程度減少したように感じているという調査を目にした。確かに都市圏に住んでいれば住んでいればなおのこと、職場と家の間の範囲、もしくは、リモートワークにより仕事場と生活圏が一緒となり、飛行機などを使って移動していた以前よりも自分の住んでいる生活圏を自転車や歩きで移動することが大半になっていると容易に予想がつく。こういった移動が以前よりも容易に出来ないという今の状況もネガティブに捉えすぎずに、自分の生活圏の見方や視点を変えることで再発見の機会として捉えてみると、また新たな兆しが見えてきそうなものだ。

 

 

 

 2010年代や特に後半にかけてよく耳にすることが多くなってきたヒューマンスケールという言葉。それに合わせてサステイナブルシティやコンパクトシティという言葉も注目され、その代表格としてはアメリカのオレゴン州のポートランドや北欧諸国、特にコペンハーゲンなどに注目が当てるケースも多かったように思う。世界的に都市化が進んだことにより、いっそう持続可能なコンパクトシティが求められる中で、デンマークの首都コペンハーゲンは、今から約74年前の1947年の戦後すぐに今後の人口増加や都市化を見込んだまちづくり「フィンガープラン」を策定した。(2007年に再度改訂)


資料:Naturstyrelsen (Nature Agency), Miljøministeriet (Ministry of the Environment) (2007) "Fingerplan 2007"(Finger Plan 2007)

 「フィンガープラン」とは簡単に説明すると地図を広げ中心部のcityに手のひらを置き、そこから伸びる5本指状にtownを接続させる交通軸を作りその間はフリースペースとして残すようにまちづくりをするプランで、その際中心部のcityを自転車中心の都市設計にすることで、townから集中するであろうことが予想される自動車などのトラフィックを分散させることに成功したそうだ。実際にコペンハーゲンを旅してみると10分も歩けばメトロやS-Togの駅を見つけることができるし、他の都市を旅するよりも自動車やバイクからの危険性などに注意を払うことなく、のんびりとゆっくり歩くことができる。(一方、自転車はかなりのスピードで走行しているので、よそ見をしていると危なく引かれそうになることもあるので、ご注意を!)

 人々の移動の感覚が変わりつつある今、人間的な速度に則って、まちづくりを再考していくタイミングになっているのだろう。

 

こちらのコラムは2021年2月20日に配信されたニュースレターの内容の再編集版です。
https://mailchi.mp/0b23a9326ca4/fkdd4nunkt


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