一瞬の美しさ

 どんなものにも美しさが存在する。けれど、そこにある美しさというのは、ほんの一瞬の出来事なのかもしれない。自然を美しいと感じるのも、春の芽吹き、夏の新緑、秋の紅葉、そして冬の枯れていく儚さは、その姿が一瞬の出来事だからなのだろう。そして、そういった時間の流れを止めることのできない儚さに美しさを感じとっているのであろう。

 この一瞬の美しさはどのようにしていれば出会えるものなのだろうか。

 

 

 さて、最近「明日の地図を目指して」というAmazonオリジナルの映画を観た。ストーリーはタイムループにははまり込んでいる二人の男女の十代の若者が、同じ日が繰り返す中で小さな奇跡の瞬間を記録しながら、そのタイムループから抜け出すきっかけを探すストーリーなのだが、映画のストーリーだとはいえ、子供が誕生したり、その反対に誰かの命が終わりを告げたりと、一日という時間の中に世界中に様々な時間や感情が流れているのだということを改めて考えさせられた。誰かにとってなんでもない一日も、また他の誰かにとっては一生忘れることができない大切な日なのだ。

 

 

 そんな日々の自分の記憶に残っている一瞬というものは、自分の方向性や価値観、意識が大きく変わった時なのではないだろうか。長い人生の中で起こる特別な変化は、狙って起こるものではなく、唐突に目の前に現れる。

 自分のその瞬間はというと初めて北欧を旅した時に訪れた。旅先はフィンランドの首都ヘルシンキ。それまで自分が経験した感覚や目にした出来事で、こころの中に出来上がっていた無意識の心象風景が、ヘルシンキの街中を歩いていると一つひとつ合致していき、無意識で作られていたそれが、自分のこころの中で音を立てながら手触り感のあるものへと組み立てられていくようなそんな心情だったように思われる。

 

 

 その後もマガジンa quiet dayの取材の中で出会うクリエイターたちとは出会うべきタイミングで出会っていったことを考えるに、安易に「奇跡」などという言葉を使いたくないが、そう言わざるを得ない絶妙なタイミングでそれらが起こっていき、はじめのころ無機質だった心象風景もだいぶカタチや色合い、そこから育まれる理想の関係性などを意識的に感じられ、そのセンサーで再び世界を見てみることで、新たな世界が広がっていくような気さえしている。

 

 

 北欧諸国で活躍しているクリエイターたちの活躍の様子や一緒に過ごす中で見えてきたことは、彼ら彼女らが一瞬一瞬を大切に考えているということ。それらは何かに向かう姿勢や言動の端々からも伝わってくる。中でも印象的だったのがSweet Sneak Studioというフードシーンに特化したクリエイティブスタジオの女性三人組のファウンダーたちだ。元々Copenhagen Business Schoolの同級生同士で放課後にケーキを食べる友達として連んでいた彼女たちだったのが、そのケーキ好きということやフードカルチャーに関心があったこと、そして学校で学んだノウハウを実行したいという意志の元、フードのPopupイベントなどを経て、Sweet Sneak Studioを立ち上げたのだった。

 

 

 自分と同世代で活躍する彼女たちとは、よく彼女たちのオフィスでランチを一緒に食べたりなどしながら、インタビューをさせてもらったり互いのこれからのヴィジョンを話したりとかけがえのない時間だったように思う。今、このSweet Sneak Studioは、ファウンダーたちがそれぞれ別々の事業を立ち上げて半ば解散のようなカタチになっている。あの時のように自分がコペンハーゲンに滞在している時にみんなで集まり、話をすることはもうないのかもしれないという寂しさはあるものの、あの時あの瞬間あのタイミングで一緒に色々と話ができたことは改めて特別な時間だったように思えてしまう。

 彼女たちの活動を改めて考えてみてみると、彼女たちの好きという想いが、他の誰かの好きと結びつきを強めて起こるはずのないことを起こしてしまうということだった。彼女たちの言葉を借りるとそれをFun Projectと言っているのだが、好きという気持ちを改めて追求しカタチにしていくとそんな不思議で美しい繋がり、そこから特別な一瞬が生まれていくのかもしれない。

 さて、あなたが今一番好きなことはなんですか?

 

こちらのコラムは2021年3月6日に配信されたニュースレターの内容の再編集版です。
https://mailchi.mp/32fd79212223/20210306

 


投稿順 新着順