感情に紐づくモノ

 マガジンa quiet dayで北欧を取材に行くときは、大抵、2週間程度をかけて4から5つの地域や都市を回ってクリエイターたちへのインタビューを行なっている。そこで一人2時間から3時間程じっくりと話を聞いてみて、何かを生み出しているクリエイターであれば、そのモノを買ってみて自分で試して、これはいいぞ!と自分の感情が動いたモノをオンラインショップでも紹介している。

 もし、モノを生み出していないようなクリエイターたちの場合は、彼ら彼女たちがおすすめしているカフェやレストランを聞くことで、クリエイターたちが日頃どのような景色や味に触れているのかを疑似体験してみるのだ。そうすることで、感情的にどんなことをキャッチアップしているのかを理解することにも繋がる。第一、誰かが好きというモノを他の誰かも好きでいてくれるというのは、とても嬉しいことのはずだ。

 

 

 それと合わせて土地が積み重ねた時間を感じ取ることもとても大切なように思う。この時間の積み重ねを一番感じられるのが、その土地のヴィンテージの何かを手に取ってみることだろう。特に1960年代から70年代までにかけて作られているモノは、大量生産、大量消費時代に突入する一歩手前の時代であっただけあってか、細かい部分に製作者の意図やこだわりを見てとることができ、その土地の空気感を感じることができる。

 

 

 よく行っているヴィンテージショップにhabengoodというショップがある。現在はデンマークのボーンホルム島とオーフスという2つのロケーションでショップ経営をしているのだが、以前はコペンハーゲンの中心部から少し外れにあるFrederiksbergにもショップを構えており、取材と取材の間の時間が空いてしまった時などはよくヴィンテージの“ハンティング”に出向いていたものだ。彼らはボーンホルム島でも買い付けをしている関係で、自分が好きなメーカーのSøholmMichael Andersenなどの陶器をよく取り扱っていて、頻繁に北欧に取材に行っていた頃(ひどい時には2ヶ月に一度のペース)は、「お!また来たか!」てな感じで入荷したばかりの品などをこっそりと見せてもらっていた。

 Frederiksbergのショップが閉業した後も、ボーンホルム島に滞在している時であれば、街で有名なアイスクリーム屋の隣にショップが佇んでいることもあって、相変わらず足繁く通っている。ボーンホルム島の店内にはデンマークやスウェーデンからやってきたヴィンテージ品が所狭しに並ぶ。ある時も隣のアイスクリーム屋で買ったアイスを食べながらヴィンテージを物色していると一つのフラワーベースに目が留まった。

 

 

 店主に「これは、どこで作られたものなの?」と聞いたら、スウェーデンかデンマークの1960年ごろのヴィンテージであることは確かとのこと。すると店主から「君はこれをどう思うんだい?」と聞き返されたので、「とても美しくていいと思うんだよね。」と答えると、「だったら、どこで作られたのかっていうことはあんまり大事なことではないんじゃない。美しいものを見つけたということはね、どこで作られたかということや誰が作ったかということよりも、まずそれを見つけることが出来た自分の感性に対して拍手をするべきなんだよ。」そのことを聞いて、なんだそんなことを言われてしまっては、絶対にこれを買わざるを得ないじゃないか、と思うと同時に、自分の感性や感情に響くモノに出会えたということは、そう何度もあるものではなく、そのこと自体が奇跡みたいなものだということに気付かされた。もちろんそのフラワーベースはしっかりと自分と一緒に日本への帰路に着くのだった。

 

 

 2018年マガジンa quiet dayで取材をさせてもらったSpace CopenhagenPeterSigne。その頃からいつか手に入れたいと思っていた&traditionから販売されているSpace CopenhagenがデザインしたCopenhagen Pendantを、つい最近我が家に迎えた。

 


 引っ越しの後のディスプレイや空間全体の照明計画などをもう一度見直しつつ空間の中に足りないパズルのピースとしてこのペンダントライトがハマったときはなんとも言えない爽快感さえ覚えた。

 Space CopenhagenのPeterが取材の中で、これからのデザインはどうなっていくのかという質問に対して機能と目的、意義や習慣などの感情的な痕跡の間の意味合いを翻訳する重要なツールとしてデザインが担っていくのだろうということを、語ってくれた。

 

 

 改めて部屋の中で使っているモノ、並べているモノを見てみても、北欧のモノもあればイギリスの1960年代のヴィンテージのテレフォンベンチや日本の骨董品、オランダのデザイン量産型のダイニングテーブルもあり、国や時代、量産品やクラフト、作家ものも分け隔てなく、その時々で自分の感情や日々の生活の経験に基づいたモノを揃えていると自ずと「自分」と結びつくことによって空間の調和を不思議ともたらしているということが分かってくる。

 最近は作り手も自分のスタイルなどをどのようにデザインから消して、モノにナラティブな感情を加えてもらえるかということに注目している。これからのモノはより作り手と使い手を感情や感覚レベルで結びつけてくれるのかもしれない。

 

こちらのコラムは2021年3月13日に配信されたニュースレターの内容の再編集版です。 
https://mailchi.mp/24a76339cd12/20210313


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