林檎の木の下で

これはRosendals Trädgård(ローゼンダール・トレードゴード)のりんごの木。
ここはスウェーデンの首都ストックホルムに立ち寄った際のよく晴れた日に友達とランチをするのにうってつけの場所なのだ。街の中心部から20分ほどトラムで移動したところにあるユールゴーデン島という島の中にあるガーデンで、オーガニックの菜園や野菜、そしてそこで取れた食材を料理として提供してくれるカフェも併設されている。ストックホルムといえば、世界でも有数の都市であるけれど、たった20分ほど離れただけで、都市では当たり前の、過剰ともいえるサービスやマニュアル化されたコミュニケーションの文脈とは一線を画したコミュニティーがそこには存在するのが面白い。もちろんどちらが良い悪いということではなくて、都市の異なるこのバランス感覚やコントラストが存在していることがとても興味深いことだと思うのだ。

 

 

 この文章は6年前に創刊したマガジンa quiet dayepilogueに書いた文章だ。まだマガジンの名称も「A QUIET DAY」と大文字のタイトルをつけており、シーズンナンバーもついていない言わば0号目といっても良いようなシリーズだった。創刊号の最後になぜこの文章やエピソードを持ってきたかというと、このマガジンのタイトルにもなるa quiet dayという世界観が体現されているということや、そこから少し先の未来の風景を感じたからに違いないと今思い起こされる。

 

 

 ユールゴーデン島の森の中を、ハイキングをしながら抜けると、一面が農作物や草花によって区分けされたこのRosendals Trädgårdが眼前に現れる。カフェでバイオダイナミック農法で栽培された新鮮な野菜や果物、素朴だけれど美味しいパン、そしてコーヒーを手に取り、カフェの屋外に広がる林檎の木の下のベンチで友達たちと食事をしながら色々な会話をする。その内容は今の暮らしのことや少し先のこと、そして未来の希望などといったこと。こういった結論がない話題なので永遠に話ができてしまうということもあるのだが、そうした気分にさせるのは少なからずこういった環境がそうさせているのだろうと感じる。忙しない現代社会に生きている中では、口に入れるものから目に見えるもの、そして会話に至るまで全てが等身大で語られているこうした環境が、砂漠の中のオアシスのごとく感じられ、心に潤いや安らぎを与えてくれるものなのだということに気付かされる。一緒に来たスウェーデンの友達はというと、そんな状況は当たり前といった様子で、木に実っている林檎を無邪気にむしり取って食べていたりするから面白い。

 

 

 どうして創刊号のepilogueやこういったエピソードを思い起こしているのかというと、昨年より取り扱いや日本への展開をお手伝いしているデンマーク発のインディペンデントマガジン「HÅNDVÆRK BOOKAZINE(ハンドバーク ブッカジン)」の最新号でRosendals Trädgårdのエピソードが収録されていたからだった。

 

styling by @westmountainbooks

 コンテンツの内容は編集長のRigetta Klint(リゲッタ クリント)がこのカーデンを訪れ、そこで働く方々との会話やストーリーが彼女の撮った写真と文章でまとめられている。話の中心はこのRosendals Trädgård のプログラムディレクターであるVictoria(ヴィクトリア)によるバイオダイナミック農法やそこで採れるものについて語られているが、中でも彼女がこの場所の位置付けが単なる職場ということではなく、自分の人生のライフスタイルや考え方の源になっているということで、仕事以外の目的意識がそこにはあるという部分が特に印象的に心に残っている。では、その目的意識は何なのかというと、「将来の世代に価値ということを伝える」ということだそうだ。

 同じく園芸家としてこのガーデンで働くSofia(ソフィア)は、このガーデンを支えているものはこの場所の精神性の部分だ、と主張しており、その例えとして、林檎の木を挙げている。樹齢1世紀以上の林檎を摘むことは、まさに自然と積み重なった時間との循環的な営みの中で起こっており、林檎を摘むという何気ない行為の中で謙虚で畏敬の念を想起させることこそが、Rosendals TrädgårdRosendals Trädgårdたらしめている価値だというわけだ。そういった意味でも6年前に、友達が林檎をむしり取った時に感じた未来の風景はあながち間違っていないのではないのだろうか。

こちらのコラムは2021年4月24日に配信されたニュースレターの内容の再編集版です。 
https://mailchi.mp/d543376e95e5/20210424

 

 


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