土の考察

 

 4月末から祖父母の畑の一部を叔父と一緒に耕し、作物の植え付けや種まきなどを始めた。畑仕事をスタートする前にも、そういった一次生産者の方たちが集まる場づくりのような方々とお仕事をさせていただいていたこともあって、前々から美味しい作物を育てるには「土」が重要であることは分かっていたが、いい土がどういったものなのかということは体感としては理解ができていなかった。

 物事にはある種の兆しのようなものがあるように思う。4月に金沢のtownsfolk coffeeでポップアップをさせてもらった際の移動の道中で映画を鑑賞していたのだが、これも何かに引き寄せられたのか「ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方」というアメリカを舞台に郊外で農業や牧畜を中心にその土地の生物の生命循環や環境を再生していくドキュメンタリーを無意識に選んでいたのだった。主人公のジョン・チェスター自身が監督製作を務めていることもあり、ミクロな自然の美しさをおさめた映像は圧巻だった。

  

 

 理想の土壌を作っていくにあたり、農薬などを一切使用しない自然農や自然牧畜を行なっていくストーリーで、そうした環境だと短期的には作物や動物たちが害虫や害獣などの被害に遭ってしまい、策を講じて対応していたが、こういった被害も長期的に考えてみると自然の循環の一つのプロセスであることが、映画を観終わると理解することができる。しかし、実際に自分がその状況に立たされたら、きっと慌てふためき対処療法的に行動を起こしてしまうのだろうと同時に思ってしまう。映画でもまさにそんな場面が描かれていたのだが、こうした対処療法的な行動を繰り返す中で、主人公は次第にじっくり観察する術を身につけていき解決の糸口を見出していくのだった。

 

 

 マガジンa quiet dayでインタビューをしているクリエイターたちの多くもじっくりと長期的な視点で物事を考え、行動を起こしている方たちが多いように感じる。中でも特に印象に残っているのが当時デンマークのコペンハーゲンにあるSPACE10という未来志向のリサーチ&デザインラボのフードエンジニアだったSebastian(セバスチャン)にインタビューした時の取材だった。

 

 彼との出会いは、同じくSPACE10で働いていた親友のMonique(モニーク)を訪ね、オフィスを案内してもらっていた時に紹介されたのだった。SPACE10の施設の地下室に連れて行かれ、彼が差し出した地下の水耕栽培システムで育てられた野菜の味の美味しさは驚くべきものだった。

 

 

 こうして字面に落とし込んでみると少し不気味な雰囲気が漂ってしまうのだが、このフード部門が掲げている目標は、「自分が食べる食材を自分が育てることができる社会の実現」で、そのための開発をしている部門だった。こういった目標は世界的には貧困エリアなどは顕著に食料需要が増大しているのに、一方では都市部を中心に食料廃棄が問題になっている現代社会の食の格差やその矛盾に対して立てられた目標であり、彼らが開発した技術がその解決の一つの糸口になるものとしてリサーチや実装が進められていた。

 

 

 

 祖父母の畑に話を戻そう。数年間、休耕地となってしまっていた畑に足を踏み入れてみるとガチガチに土が固まってしまっているところと、踏み込んだ足が少し沈むようなフカフカで豊かな土に分かれていた。色々と調べてみると、そもそもその土地が持つ水捌けや日当たり、風の流れなどの影響も受けて現在の環境となっている場合が多いとのことだった。

 フカフカな土を少しめくってみてみると、そこには小さな虫やミミズなども生息していて目には見えないけれど、微生物などもきっと多いのだろうと予想がつく。一方ガチガチな方はというとそういった生物の気配すらない状態で、先ほどの映画の冒頭に同じシーンがあったななんて呑気なことを考えてしまうのであった。かといってフカフカだったら御の字というわけではないようで、生物たちが増えすぎると作物にとっては栄養過多になったり、それらが害虫になってしまう可能性もある。

 土の話をしているのに、何やら先ほど話に出した現代社会の食の問題ともリンクしてくるようで面白い。どちらもどこかに集中してしまうことなく、じっくりと観察をしつつ自然の調和やバランスをとっていくことが必要なのだろう。

Sebastianのインタビューはこちらのマガジン a quiet dayに収録しております。


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