気分の調律

 人はなぜ色々と創造をしたがるのだろうと考える時がある。ものの本によると、この地球上で生存競争を勝ち抜くためには日々進化や進歩をしていかなくてはならず、そのために創造をしているそうだ。こんなことを考えていたところ、最近面白い本に出会った。太刀川英輔・著の「進化思考」という本だ。変化の大きい時代に生き残るためのコンセプトを作るために、生物の進化と人間の創造性がとても近しいことを見つけ、生物の進化を丁寧に紐解いている言わば創造性を考えていくための百科事典といったら良いのではないだろうか。

 この本の中で「人はむしろ創造に幸福を見出している。」という一文が出ていて、確かにと思わされた。例えば何かのプロジェクトのコンセプトメイキングや編集の仕事をしている時に、自分たちが向かっていく方向性についてシンプルでかつ分かりやすいキーワードでまとめられないかと悶々とすることがある。そういった時は一旦、机のmacbookから目を離し、自分がリラックスできるランニングやシャワーを浴びたりしていると、ふとその探していたキーワードが降りてくる。この感覚がなんとも言えない多幸感を抱くことがあるのだ。創造の中にある、出口の見えないトンネルをひたすら歩いている悶々とする時間から、突然眼前がパッと明るくなるように閃くまでの瞬間のグラデーションはある種の中毒性があるのだろう。あの苦しい悶々とした時間を忘れ、また何かのコンセプトを考え始めていたりもするものだ。

 

 

 7月も過ぎるとヨーロッパはバカンスシーズンに突入する。昨今のご時世的に世界中を旅することで休息を取ることはなかなか難しくなってきたのだろうが、今年も漏れなく、仕事上のメールをヨーロッパ方面に送ると、自動返信で休暇中である旨が送られてくる。ヨーロッパのいわゆる夏のバカンスというような文化のない日本人、そしてそういったヨーロッパの国の人たちと仕事をしている人たちはこの時期はなんだが仕事のペースが意図せずスローダウンしてモヤモヤしたりする時期なのだろう。

 

 

 ご存知の方も多いのではないかと思うが、この夏のバカンスシーズン、北欧の国々ではサマーハウスという場所に生活拠点を移す人も多くいる。サマーハウスは都市部から少し離れた山の中や湖の畔などに佇む、言わば別家で、人間が生活する上で最低限のインフラしか整っていないような、都市生活からしたら“不便”な場所ということができるかもしれない。けれどその場所で過ごした夏のバカンスのことを友達たちに聞くと、とても充実していたといったことや心のリセットになったといった感想を言う人たちが多くいる。想像するにつけ、都会的でなんでもある状態と違い何もない状態の中で、生活を創造していくことは、先の言葉を引用すれば創造していくプロセスで自身の心が本質的な幸福な状態に近づいていくのだろう。いつか自分もそんな生活をしてみたいと密かに思っている。

 

 

さて、今週行なったクライアントとの打ち合わせの中で、「何か伝えたい(進めていきたい)からこそ一度ゆっくりと立ち止まってみる時間が必要なのではないか。」ということが会話の中で生まれた。実現していきたいヴィジョンをヒアリングしている中で出てきたこのキーワード、一見するとオクシモロン(撞着話法)のようだが、悶々としている時のランニングや日常から非日常へと転換するサマーハウスなど切り替えが大切なのだということがじんわりと感じさせられる。ざわざわする世の中だからこそ、気分の調律法について考えを巡らせていきたいものだ。

※小さな巨人、ゆっくり急げなどの意味の矛盾する語句を並べて、言い回しに効果を与える修辞法。

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