Persiaを追い求めて

 Michael Andersen & sønをご存知だろうか。北欧諸国には際立って有名な陶器のブランドがある。フィンランドはArabia。スウェーデンはRorstrand。デンマークといえば、Royal Copenhagenといったところだろう。これらのブランドの後ろに刻印されている、スタンプに王冠が混ざっていることを考えてみれば一目瞭然なのだが、多かれ少なかれこれらは、王室という権威をバックにその国の生活文化などをプロダクトという側面から構築することに一役買った。

メジャーなブランドのスタンプには、王室の象徴の冠がアレンジされている

 国単位のマクロベースでの一般的な生活文化の向上という点では、メジャーどころのブランドが活躍したが、暮らしの中のアート性でいう視点だと、インディペンデントやマイクロファクトリーにも注目する必要があるだろう。中でもMichael Andersen & sønは、1773年にRasmus Olsenというクラフツマンがデンマークのボーンホルム島のRønneで立ち上げた小さな工場をJens Maichael Andersenが1890年に引き継ぐことで陶器のブランドの歴史をスタートさせた。

現在でこそ、先にあげた有名な陶器のブランドに比べれば無名と言ってもいい存在だろうが、アーツアンドクラフツ全盛の19世紀末から20世紀の間にMichael Andersen & sønが積み上げてきた、プロダクトのアート性を表現する釉薬のテクニックは、後世に名を残した北欧のデザイナーたちや、現在でもなお、多くのクラフツマンたち、特にボーンホルム島で製作に勤しむ人たちを中心に近隣北欧諸国のものづくりに影響を強く残している。

 そのローカルに根付いたものづくりの精神は、1931年から使用されはじめた3匹のニシンのを模ったMichael Andersen & sønの陶器に刻印されているブランドスタンプからも良く分かるだろう。ファクトリーのあるボーンホルム島やRønneという町は、古くから漁業が盛んなため、町のシンボルでもあるこの3匹のニシンの盾を刻印することで町の誇りも同時に表現している。

 創立者のJensには、4人の息子がおり、彼らもMichael Andersen & sønで働き、1940年代から50年代の間には70人の以上雇うことができるほどの規模感にまで成長したほどだ。さらに1930年代の初頭、創業者のJensの長男のDaniel Folkmann Andersenは、「Persia」という複雑な幾何学的なひびの入った釉薬を使った表現技法を生み出した。

 これによりフィギュアなどの作品では顕著なのだが、プロダクトの内面的な感情表現が可能となったのだ。この技法で製作されたプロダクトが1935年にベルギーのブリュッセルで開催された世界博覧会で金賞を受賞したことで、Michael Andersen & sønの名を一躍世に轟かせるに至った。

 そして、1955年にはハンブルグ美術学校を出たドイツ人のMarianne Starckがアートディレクターとして同社に入ったことで「Persia」の技術を使ったプロダクトが人々の生活の中に浸透していった。しかし1960年代ごろまでMichael Andersen & sønで使用されたこの「Persia」は、あろうことか、その配合や技術が一部のクラフツマンにしかオープンになっておらず、忘れ去られてしまったそうだ。その結果、今では再び生産することができないと言われている。

 しかし、この「Persia」のひびの入った釉薬の表現方法に感銘を受けたスウェーデンのデザインレジェンドStig Lindbergにも影響を与え、その手法を真似たプロダクトを残しており今となっては知っている人が少なくなってしまった「Persia」の表現フィロソフィーは、時代や形を変えながら現在まで受け継がれているのだ。北欧デザインに多大なる影響を与えた「Persia」は今もプロダクトのどこかに残っていると思えばなんともロマンティックなのではないだろうか。

 そんな、Persiaを追い求めて。 

 

 

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